松井智司の「美」 その7 変化

もう少し、中学時代の智司少年を追いかけよう。暮らしに変化が訪れるからである。

いまは小学生から英語の授業が始まるが、当時は中学に入って初めて英語に触れた。教科書に並ぶabcに智司少年は戸惑った。全く理解できないのである。

小学校の頃は、勉強などしなくても何となく理解できた。算数も国語も社会も理科も暮らしの中に出てくるから、取り立てて勉強しなくても

「こんなことだろう」

と分かる。だから勉強はしないが、成績は「下」ではなく、「中の中」を保っていられた。

だが、英語となると話が違う。生家にもおばあちゃんの家にも町にも、英語は見当たらなかった。これは勉強しなければ理解が届かない。

「あのう、英語が分からないんだけど,塾に行かせてもらえませんか」

おずおずと母に申し出、塾に通い始めた。生まれて初めて

「勉強しなくちゃ」

と思ったのである。

「やってみたら、ちんぷんかんぷんだった英語が分かるんですよ。すっかり面白くなって英語が大好きになり、つられるようにほかの科目も勉強をするようになりました」

智司少年はそれまで、もっぱら「感性」を磨いてきたのだろう。この時の変化は「知性」も磨かねばならないと、智司少年が少し「大人」になったことの表れではなかったか。

成績に自信を持ち始めた智司少年は、いずれにしろ繊維の世界で生きていくことになるのだろうから、であれば京都繊維工業大学に進学したいと考え始めたのである。