松井智司の「美」 その15 期待を裏切る

デザイナーとは、いいものを作るためには金に糸目をつけない人たちである。手間暇がとてつもなくかかる生地を注文しているということは彼らも十二分に承知していた。そのためか、支払いは鷹揚だった。対米輸出が壊滅状態になった松井ニット技研の生産量は大きく減ったが、利益はそれまでと同じ水準か、時としては凌ぐことさえあった。

「ええ、おかげさまで、当時は社員たちと、今年は香港だ、今度はシンガポールだ、って毎年のように社員旅行に出かけていました」

デザイナーたちが求めたのは、生地だけではなかった。中には

「うちのブランドで売るマフラーを作って欲しい」

という注文も舞い込んだ。当然、色彩デザインが施されたマフラーである。

真知子巻きのブームで売れたマフラーも、対米輸出用のマフラーも、どちらも白一色だった。編み方の違い、編み目の面白さ、正確さなどで他とは違うマフラーを造っていた自信はある。だが、デザインされたマフラーとはまだ言い難い。

「そうか、マフラーも色をつけてデザインすればより美しくなるんだ」

世界に羽ばたこうというデザイナーたちはフォルムに、色選びに、その組み合わせに命を削っていた。彼らとの付き合いは、デザインすることの厳しさ、面白さだけでなく、「色」を使うことの大切さを智司社長に教えてくれた。

彼らとの共同作業で手に入れたのは、会社の利益だけではなかった。智司社長はソロリ、ソロリとデザイナーへの入り口に近づいていた。

写真:美しいデザインのマフラーを編み出すラッセル編み機