松井智司の「美」 その28 クリムト

「クリムトは金色をたくさん使って絵を描きました。ところが、マフラー用の糸には金色がありません。さて、金色を黄色の糸で表現できるか、と思ってやっているのですが、なかなか上手くいきませんねえ」

松井ニット技研の毛混マフラーは、ブラウン系、ブラック系、ブルー系、レッド系、パープル系、ピンク系の6種が定番である。筆者が立ち会ったときはブラック系のデザインの最中だった。そばにピンク系、ブラウン系もある。

黒の隣に灰色がかってくすんだ緑、その隣は少し濃い目の灰色。そしてオレンジが並び、再び黒が登場して淡い黄緑……。

「うーん、いまいちですかねえ」

テーマをクリムトに決めたら、クリムトの絵画から色の組み合わせを抜き出す。最初はできるだけ忠実に色を写し取るが、もともと絵画とマフラーは違うキャンバスに描かれる。加えて、金色のようにマフラー用の糸にはない色もクリムトは遠慮なく使っている。

「だから、まずクリムトに忠実にデザインして、次はクリムトから遠ざかるのです。クリムトを壊していくとでもいいましょうか。そうしないとマフラーになりませんから」

クリムトを壊し、さらにそれを壊す。毎回のデザイン作業時間は30分から長くても1時間である。

「感覚の勝負ですから長時間グジャグジャやっても意味がないんです」

納得が出来たらラッセル機で20〜30本のマフラーを編みあげてみる。

「編み上がるとまた違ってきて、あ、これじゃダメだというんでまた壊すんです。私の気分が毎日変わるように、感覚も毎日変わりますから、そうなっちゃうんですねえ。今年は特にモタモタしています。なかなか満足のいくマフラーが出来ないです」

写真:松井ニットのマフラーは、まずデザインから始まる。