松井智司の「美」 その29 あなたの1本

こんな作業を毎日のように繰り返す。クリムトに寄り添い、クリムトから離れ、さらに壊して松井智司の世界を作る。そんな作業だから、一つの色系のマフラーが5、6種類出来る。ちょっと見るだけなら同じに見えるが、もう一度見るとそれぞれが微妙に違っている。黄色が少し薄くなっていたり、色の並びが変わっていたり、縦縞の幅が変えてあったり……。

「これなら市場に出せる」

というデザインが出来るまでのマフラーはすべて、捨てることを前提に作ってみる試作品にすぎない。
おそらく、このデザイン作業の中に智司社長の美意識が埋め込まれているのだ。

母やおばあちゃん、おばさんたちが身につけていた絢爛な色使いの和服、帯。

市川歌右衛門の舞台衣装、舞台の天井から下がっていたあふれるほどの藤の花。

幼い目で見た桐生の芸者さんたちのきらびやかな和服、帯。

親戚の料亭で見た置物、陶器、庭。母が選んで着せてくれた服。

中学の教科書で見たアルタミラの洞窟壁画。

高校生の時に東京で見たゴッホ。

茶の湯にのめり込んで惹きつけられた小堀遠州の「綺麗さび」。

ヨーガン・レールのデザインで見いだした多色使い。

ポンピドゥ・センターで知ったワシリー・カンディンスキーの「色の合唱」。

YEARLINGでの合唱で見いだした「倍音」の美。

イタリアで目を見開いた大胆なオシャレとファッションのコーディネーション。

……。