松井智司の「美」 その26 指名買い

これだと思うものが編み上がると、次は染色である。

敏夫専務は商社時代、化学の知識も身につけていた。仕事に必要になったため、メーカーの研究所を尋ねて教えを請うたのだ。だから思いついた。

「特殊な帯電防止剤と柔軟剤を私は知っている。あれを使えばミンクそっくりのタッチが出せるはずだ!」

そして、後染めが出来るのなら是非グラデーションに染めようと決めた。染め屋さんを何件も訪ね、やってくれるところが見つかると敏夫専務が付きっきりで2つの薬剤の使用法を指導した。こうして出来上がったのがアクリルミンキーマフラーだった。

毛足が長く、柔軟剤の働きもあって肌に優しい。特殊な帯電防止剤を使っているから毛玉が出来ない。見ても触ってもミンクの毛皮のようだ。

それに、グラデーションも素晴らしい仕上がりだった。濃い緑が中央部に行くに連れてだんだん薄くなり、やがて白くなる。緑だけでなく、黒、茶、ブルー、ベージュ、紫、オレンジとたくさんの色を用意した。

「とあるアパレルにOEMで出しました。売れました。一時は生産が追いつかないほどで、嬉しい悲鳴を上げました」

やがて粗悪な類似品が出回るようになった。編み方が違い、染めの手順も違うからだろう、肌触りも風合いも全く比べものにならないものだったが、

「やっぱり良貨は悪貨に駆逐されるんですね」