松井智司の「美」 その22 真っ赤なロングマフラー

話を元に戻そう。

パリを出た智司社長とデザイナーはコルシカ島に向かった。そこからニース、マルセイユと足を伸ばし、イタリアに入ってピサ、フィレンツェ、ローマ、ミラノと歩いた。デザイナーはミラノで

「私、これからちょっと用事がありますので、ここで」

と一人で次の目的地に向かった。一人になった智司社長は、再びパリに足を向けた。

これが初めてのヨーロッパ旅行である。パリはあこがれの街だった。足繁く松井ニット技研を訪れていたデザイナーたちの話には、必ずといっていいほどパリコレクションの話が出る。

「今年のパリコレはさ、○○のドレスがとても素晴らしくて……」

「パリコレに行ったら、シャンゼリゼは欠かせないよね。今年もね……」

行ってみたかった。パリのオシャレな雰囲気、芸術の空気の中に自分を置いてみたかった。でも、フランス語……。
行きたいという思いは募っても、とてつもなく遠いところだった。

しかし、英語とフランス語を自在に操るデザイナーと過ごしたパリとイタリアの旅は、智司社長に自信を与えていた。列車の乗り方は分かったし、ホテルの使い方も身についた。あとは片言の現地語さえ覚えればヨーロッパ旅行も怖くないじゃないか!
一人で旅を続けた。

「だから、あれをきっかけに何度もヨーロッパに出かけました」