KNITTING INN その12  タグとネーム

とはいえ、他の人が一度は立ち上げるのを失敗したブランドである。ケチがついてしまったたブランド名ともいえる。

「そんなことはまったく気になりませんでした。何しろ、私たちはラッセル機を使ったニットには自信があります。こんな素敵なニットが作れる会社は世界中探してもありません。ニットの宿。松井ニット技研のブランドはこれしかないじゃありませんか」

           ※ラッセル機:セーター・ジャージ・レースなどを編む編み機

敏夫専務も納得した。話し合って、まずKnitting Innをすべて大文字にした。特に理由があったわけではない。KNITTING INN。だが、これでは文字の上が揃い、見た目が平板だ。リズム感が欲しい。そこで、頭文字のKとNだけを大きくした。これで「KNITTING INN」である。

「ええ、字体にはこだわりませんでした。KNITTING INNなら、どんなフォントでもいいことにしました。正直に言うと、字体にこだわるとなると金がかかります。デザイナーに頼まなければなりませんから。当時はそんなゆとりはありませんでした」

すぐに商標登録した。あの若手デザイナーはどうしたわけか、ブランド名の商標登録をしておらず、スムーズに進んだ。

次は商品に付けるタグとネームをつくらねばならない。

タグとネームはそれぞれ1万枚ずつ発注した。タグはマフラーなど冬物につける分は黒字に白い文字、ストールなど季節を問わずに使えるものは白地に黒文字。それぞれ1万枚ずつの発注である。製品に縫い付けるネームは2万枚。

製品2万点分のタグとネームだ。だが、新規ブランドのマフラーが、そんなに売れるか? 実は、それが発注できる最低単位で、それ以下の数では発注出来なかったというのが実情らしいのだが、智司社長はこういった。

「いや、そんなことはありません。その程度は必ず売れるはずだ、という確信がありました。何しろ私たちにはA近代美術館での実績があるのですから」

智司社長はどこまでも楽観主義者である。

次は価格戦略だ。
これまでOEMで納品していたマフラーは、7000円から8000円で店頭に並んでいた。それに対抗できる価格にしなければならない。しかし、安くしすぎると問屋やアパレルメーカーの逆鱗に触れる恐れがある。

「そのあたりを勘案して、5000円から6000円の範囲だろうなあ、ということで、最後は皆で相談して決めました」

一見すると値を下げての市場開拓にも見えるが、自分のブランドの商品なら流通の過程が短くなり、店頭価格をその程度に下げても松井ニットの利益はむしろ増える。

KNITTING INN」はこうして誕生した。徐々に全国の美術館に並び始めた松井ニットのマフラーに、「KNITTING INN」のタグが誇らしげについていたことはいうまでもない。

  写真:松井ニット技研のラッセル編み機